同じお客さまを、同じ人として数える
データの「決める人」と「そろえる人」。新しい組織を作らずに、取るときからそろえる
キャンペーンの応募、会員登録、購入者の登録。お客さまの情報は、部署ごと、施策ごとに集まります。集めた住所データを並べてみると、同じ方が別の人に見えたり、別の場所が同じ住所に見えたりします。そのままでは、何人の方が応募し、そのうち何人が買ってくださったのかを、自社のデータで数えられません。
この解説では、データを「決める人」と「そろえる人」に分けて考える方法を紹介します。考え方は、海外で長く使われてきたデータ管理の知識体系と、その分野の定番の本から借りています。OnAKが付け加えるのは、住所と名寄せの実務の話です。
01 SAME PERSON同じ方が、別の人に見える
同じ方でも、応募のたびに書き方が変わります。反対に、東京都江戸川区の「一之江」と「一之江町」のように、別の場所が同じに見えることもあります。書き方の揺れと名寄せの基本は『データクレンジング入門』で、町名の取り違えはこちらの解説で取り上げました。
この解説で考えたいのは、その手前です。直すこと自体は技術の話ですが、誰がどこまで直してよいかを決める人がいないと、手が付けられないまま残ります。部署ごとに集めた住所データを、誰も横につなげない。そこをどう分担するかです。
02 ROLES決める人と、そろえる人
データ管理の専門家の国際団体DAMA International※がまとめた知識体系『DAMA-DMBOK』の第2版では、データオーナーを「自分の担当領域のデータについて、決定を承認する権限を持つ人」としています。DAMAの用語辞典は、データスチュワードを「業務の責任者や業務に詳しい人で、データの管理に責任を持つ人」としています。つまり、決める人(データオーナー)も面倒を見る人(データスチュワード)も、IT部門ではなく業務の側の人です。
OnAKは、これを次のように置いて考えています。
| 役割 | 誰が | 何をするか |
|---|---|---|
| 決める人 データオーナー | 営業、マーケティング、法務など、今ある部署の長 | そのデータが何を意味するか、どこまで使ってよいかを決める。部署ごとの縦の線。 |
| そろえる人 データスチュワード | 部署をまたいでデータを扱う担当者(兼務でよい) | 部署や施策をまたいで、同じ方を同じ人として、同じ住所を同じ住所としてそろえる。部署を横に貫く横の線。 |
| 器を守る人 | 情報システム部門 | データを置く仕組みを守る。保管、権限、記録。 |
知識体系の呼び名を借り、縦と横の置き方はOnAKが整理したもの。
(スマホでは図を横に動かせます)図1 決める人は縦、そろえる人は横 部署ごとに決める人がいて、部署をまたいでそろえる人が一人いる。器は情報システム部門が守る。
大事なのは、どの役割も誰かの仕事を取り上げないことです。決めるのは部署の長、仕組みを守るのは情報システム部門のまま。そこに、横につなぐ「そろえる人」を一人置きます。
03 NO NEW ORGANIZATION新しい組織は要らない
「データの管理体制を作る」と聞くと、委員会や専任の部署を思い浮かべがちです。データ管理の専門誌の創刊者で、データガバナンスの指導に長く携わってきた米国のRobert S. Seiner氏※は、著書『Non-Invasive Data Governance』で、人はすでに仕事の中でデータを定め、作り、使っている、その人たちに正式に責任を持ってもらえば、それがスチュワードだ、と述べています。肩書きを変えたり、仕事を上乗せしたりするのではなく、今あるものを正式な形にするやり方です。
キャンペーンの応募データなら、決める人はその施策を持つ部署の長、そろえる人は、いま実際に住所データをまとめている担当者です。新しく人を雇う必要も、組織図を描き直す必要もありません。役割に名前を付け、何を決め、何をそろえるかを書き出すところから始めます。
小さな会社や部署では、そろえる人は誰かの兼務になります。手が回らないところは、外の手を借りても構いません。ただし、決めるのは社内の決める人です。外の手は、そろえる作業と、判断の材料を出すところまでを受け持ちます。
04 AT THE SOURCE取るときに、そろえる
米国ベル研究所でデータ品質の研究室を立ち上げた統計学者、Thomas C. Redman氏※は、著書『Getting in Front on Data』で、私たちは誰もがデータを使う人であり、同時に作る人でもあると述べています。そのうえで、それぞれが自分の役割を担い、悪いデータが生まれる原因に先回りする(get in front)ことを説いています。あとで直すより、作る時点で正しくする考え方です。
名寄せも同じです。集めたあとにそろえる手間は、集めるときの決め方でかなり減らせます。応募フォームや登録画面を作る前に、決める人とそろえる人で次の3つを決めておきます。
- 住所の書き方郵便番号から町名までを選べるようにし、番地と建物名は分けて入れてもらう。「一之江」と「一之江町」のような取り違えは、町名を選んでもらうだけで起きにくくなります
- どこから来た応募かの記録応募の経路(どの告知を見たか、購入者の応募か、購入不要の応募か)を、住所データの中に残す。あとで二つの住所データを突き合わせるときの手がかりになります
- 何に使い、いつまで持つか応募のときに示す利用目的に、お客さまの傾向の分析に使うことと、持っておく期間を書いておく。示していない目的には使えません。あとから付け足すのは難しくなります
図2 あとで直すか、取るときにそろえるか 町名を選んでもらうだけで、取り違えも書き方の揺れも起きにくくなる。
それでも、取ったあとの手直しはゼロにはなりません。施策が増えるほど、書き方は少しずつずれていきます。定期的に照合して、ずれを早めに見つけることは残ります。
05 MATCHそろえると、突き合わせられる
同じ方を同じ人としてそろえられると、別々に集めた住所データを突き合わせられるようになります。たとえば、購入しなくても応募できるキャンペーンと、購入した方だけが応募できるキャンペーンを突き合わせると、次のことが見えてきます。
図3 二つの住所データを重ねる 同じ方を同じ人としてそろえてから重ねると、三つの層に分かれる。
キャンペーンのたびに応募だけをする方を分けておく大切さは『データクレンジング入門』でも触れました。突き合わせると、その方々が実際にどれだけいるかを数えられます。一度きりなら一つの施策の振り返りですが、続けていくと、どんな方にどんな連絡をすればよいのか、会員向けの施策で何に力を入れるべきかが見えてきます。お客さまの姿を、自社のデータで確かめられるようになります。
ここで使えるのは、そろえる段階で整えた住所と氏名です。01の取り違えや表記の違いが残っていると、同じ方が「片方だけ」に数えられてしまいます。
06 KEEP LESS必要な方にだけ連絡し、ほかは期限で消す
キャンペーンで集まった方のうち、会員として改めてご案内したい方には、会員登録などで改めて同意をいただきます。それ以外の方の情報は、04で示した期間が来たら消します。何を持ち、何を持たないかの考え方は『量より、何を持つか』に、消す時期の決め方はこちらの解説にまとめています。
※ 法令の当てはめは、個別の事情によって変わります。実際の運用は、社内の法務部門や専門家にご確認ください。
07 SMALL START小さく始めるなら
全社の体制をいきなり整える必要はありません。一つの施策、一組の住所データから始めます。
- 決める人とそろえる人を、一つの施策で決める施策を持つ部署の長と、住所データをまとめている担当者に、役割の名前を付けます。
- 二つの住所データを、一度だけ突き合わせる購入不要の応募と購入者の応募など、手元にある二つの住所データで試します。
- 次の施策の応募フォームに反映する突き合わせで手間がかかったところを、04の3つに戻して直します。
SOURCES出典
この解説の考え方は、次の文献から借りています。原典の要約は、著者へのインタビュー記事、出版社の紹介、原典を引用した記事によります。訳と、縦と横の置き方はOnAKによるものです。
- DAMA International『DAMA-DMBOK: Data Management Body of Knowledge』第2版(Technics Publications、2017年)p.77 データオーナーの定義。DAMA『The DAMA Dictionary of Data Management』p.88 データスチュワードの定義。いずれも Data Crossroads(2019年12月13日)の引用による
- Robert S. Seiner『Non-Invasive Data Governance: The Path of Least Resistance and Greatest Success』(Technics Publications、2014年)。著者の考え方は TechTarget「Noninvasive data governance offers friendly approach」、TDWI「Try a "Non-invasive" Approach to Data Governance」(2011年4月13日)による
- Thomas C. Redman『Getting in Front on Data: Who Does What』(Technics Publications、2016年)。出版社の紹介ページによる
この解説で引いた団体と人
- DAMA International
- データ管理の専門家が集まる国際的な非営利団体。特定のソフトウェア会社に属さない。1980年に米国ロサンゼルスで最初の支部ができ、いまは世界に50を超える支部がある。データ管理の知識体系『DAMA-DMBOK』をまとめ、データ管理の専門資格(CDMP)を運営している。(DAMAノルウェー支部の紹介による)
- Robert S. Seiner
- 米国のデータガバナンスの指導者。データ管理の専門誌「The Data Administration Newsletter(TDAN.com)」を1997年に創刊し、26年以上発行してきた。コンサルティング会社KIK Consulting & Educational Servicesの代表。「非侵襲型(Non-Invasive)データガバナンス」の提唱者。(DATAVERSITYの記事による)
関連:会員データ実数調査/ホワイトペーパー『データ作業、AIに任せられること・任せられないこと』(人とAIの役割分担)/その住所、「一之江」と「一之江町」を取り違えていませんか/ホワイトペーパー VOL.1『データクレンジング入門』(表記ゆれ・重複・名寄せの基本)
気になっていることを、一行で。
「うちの住所データは突き合わせられる状態か」「応募フォームのどこを直せばよいか」など、一行だけでも構いません。データを送っていただく必要はありません。内容を伺い、確かめ方からお答えします。
合同会社オンエーケー(OnAK)は、データクレンジング・名寄せ・データ突合を専門とする会社です。